日本刀の美と言えば、姿や地鉄とともに「刃文」の美しさを挙げなければなりません。刃文とは、焼入れの技術によって生ずる模様のことです。焼刃土(やきばづち)という粘土性のものをへらを用いて刀身に土を塗るのですが、塗り方で直刃(すぐは)になったり、乱刃(みだれば)になったりと、刃文の形が決まります。これを土取(つちとり)と言います。土取の土が乾いたところで炉に入れ、刀身の焼加減を見て水槽に入れます。これを焼入れと言い、最も技量を要する大切なものと言われています。
刃文の文様は、制作された時代・刀工の系統・特色をよく現し、様々に変化した魅力があります。
刃文には焼き入れによって生じる沸(にえ)、匂(におい)があり、これは秋の夜空に輝く星のようにきらきらと見えるものが沸、またかすんだ天の川を望むように見えるものを匂などと言われています※。これは刀工の美意識の集約とも言えます。 刃中の沸の多い作風を「沸出来(にえでき)」と言い、主として鎌倉初期の作刀や相州物(そうしゅうもの)の系統に見られます。「匂出来(においでき)」の作風は、鎌倉中期以後の備前物(びぜんもの)や南北朝時代の備中青江物(びっちゅうあおえもの)などに代表されます。
沸(にえ)
匂(におい)
※沸は粒子の粗(あら)い部分で、肉眼でとらえることができますが、匂は顕微鏡で見てやっとわかるほど粒子が細かいものです。
また、「働き」と言われる景色があります。例えば、刃中の沸がつながって細い線となり、いっそう輝いてきらりと光って見えるものを金筋、やや太く長いものを稲妻(いなづま)と呼んでいます。同様のものが地肌にある場合は地景(ちけい)、沸が一部分に固まった飛焼(とびやき)があります。他にも、刃中に現れる足(あし)・葉(よう)・砂流(すなが)し,など見所が多い部分です。